エリザさんの作品を初めて見たとき、「アートとデザインが、ごく自然に重なっている。」という感覚が先にきました。格子のような構造があるかと思えば、ゆるやかな曲線が同じ画面に収まっている。整理された論理と、そこからはみ出す手の痕跡が、同じ土台に共存している。
ベルギー生まれ、東京とヘルシンキを拠点に活動するエリザさんは、18歳で工業デザインに出会い、その後フィンランドのアールト大学でテキスタイルを学びました。「人の日常生活に関われる」。それがデザインへと向かう最初の動機でした。卒業後はエルメスでのデザイン部門を経て、2021年に自身のスタジオを設立。自身をアーティストよりデザイナーに近いと感じながら、絵もテキスタイルも空間もすべてをつなげながら制作するというスタンスは、その頃から変わっていません。
フィンランドが変えたもの
大きな転機はヘルシンキに住んだことだった、とエリザさんは言います。アールト大学でデザインを深く学んだのはもちろん、それ以上にフィンランドの文化と生活が自分を変えたと。日常の中で自然が身近にある感覚が、今もインスピレーションの根っこにあるそうです。
大自然でなくてもいい。道端の落ち葉、タンポポ、苔——そういった日常の小さな自然を「観る」ことが、作品の出発点になっています。アイデアが生まれる瞬間を聞くと、「散歩しているとき」という答えが返ってきました。時間があれば寄り道しながら帰る。あまり計画しない、迷子になるくらいの旅の方が素敵な出会いがある。そういう姿勢が、制作にもそのまま通じています。

エリザさんが歩いたフィンランドの散歩コース
構造と、はみ出すもの
作品を見ていると、その感覚がよく伝わってきます。細い線が格子状に積み重なった作品では、区画ごとに色がそっと変わる。鉛筆で引いたような線は微妙にゆれていて、規則的なのに、息をしているように見えます。石のかたちを思わせる有機的なシルエットが整然と並ぶ作品では、形が揃いすぎず、でも散漫にもなっていない。あの「ちょうどいい不均一さ」は、偶然ではないはずです。
「計画された構造の上に、コントロールされない部分が共存する関係は、自然と人間の関係によく似ている」とエリザさんは言います。線はいつも手書きで、少しだけ歪んでいる。その歪みに温もりを感じている、と。
色日記のこと
色のつくり方にも、一貫したこだわりがあります。アクリルで落とし込んだ自作の色チップを「色日記」としてアーカイブし続け、その色を制作の指示に使うそうです。微妙な「間の色」が好き、という言葉どおり、実際の作品の色はそういう色をしています。言い切れないやわらかさ、どこか馴染みのある新しさ。グレーともベージュとも言い切れない色、くすんでいるのに透明感がある緑。自分でつくらなければ出てこない色です。
坂本龍一と、落ち着いたマインドセット
影響を受けたアーティストを尋ねると、音楽家の坂本龍一さんの名前が挙がりました。コンセプト、考え方、世界観にいつも感動し続けている、と話してくれました。ご両親が音楽関係の仕事をされていたこともあり、音楽はもともと身近だったそうです。
制作に向き合うときに大切にしていることは、落ち着いたマインドセットでいること。続けられる理由は、単純に楽しいから。絵を描き、デザインを考え、実現させること、そして様々な人と関わりながらものづくりをすること——それがかけがえのない時間だと言います。

エリザさんのアトリエ
暮らしの中の、密かな存在として
飾ったポスターが「暮らしの中で密かな存在として、優しい支えになれたら」とエリザさんは話してくれました。ふとアートピースを見る瞬間に、心が少しだけ落ち着くきっかけになれたら、と。自分にとっての「いいな」と思える瞬間を、見てくれた人にも見つけてほしい —— エリザさんはそう話してくれました。