アートの世界には、制作活動を行う作家以外にも多くの専門的な職種があります。 それぞれが異なるスキルや知識を必要とし、アートの分野を支える重要な役割を果たしています。 以下に主要な職種の具体的な仕事内容、必要な条件、難易度、そして収入の目安についてご紹介しました。 なお収入については厚生労働省「賃金構造基本統計調査」や美術館の求人情報。 転職サイト(リクナビNEXT、dodaなど)の職種別求人データを基に推定しています。
1. キュレーター(主に学芸員) ※1
仕事内容
展覧会の企画運営、作品の管理保存、美術に関する研究や教育活動を行います。 例えば、美術館の収蔵品をテーマにした展示を企画し、カタログ制作や広報活動にも携わります。
必要条件
・学芸員になる場合は学芸員資格(大学で指定科目を履修)
・美術史や文化財保護の知識
・実務経験(インターンシップが有利)
難易度
学芸員資格取得自体はそれほど難しくありませんが、美術館の正規職員の採用は狭き門です。 競争率が高く、専門性が求められます。
収入の目安
平均年収は300万〜500万円程度。 公務員として雇用される場合が多く、安定した収入が期待できます。
2. アートディーラー (美術商)※2
仕事内容
ギャラリーやオークションでアーティストの作品を販売し、コレクターや企業と関係を築きます。 市場動向を分析し、適切な価格で作品を評価する能力が求められます。
必要条件
・美術やマーケティングの知識
・コミュニケーション能力
・市場分析のスキル
難易度
実績や人脈が成功の鍵となります。 経験を積むにはギャラリーやオークションハウスでの勤務が有利です。
収入の目安
年収は300万〜1,000万円以上と幅広く、成功度に依存します。 高額取引を手がけると大きな収入を得られる可能性があります。
3. アートマネージャー
仕事内容
アーティストの活動を支援し、展覧会やプロジェクトの運営を総合的に管理します。 資金調達や広報活動も担当します。
必要条件
・マネジメントスキル
・アート業界の知識
・調整力や交渉力
難易度
プロジェクトの成功には多岐にわたるスキルが必要です。 経験を積むにはギャラリーやアートイベントでの実績が重要です。
収入の目安
年収は400万〜800万円程度。 フリーランスとして働く場合は収入が不安定になることもあります。
4. アートライター
仕事内容
展覧会や作品のレビュー、アーティストのインタビュー記事を執筆し、アートの魅力を伝える仕事です。 専門誌やウェブメディアに寄稿することが多いです。
必要条件
・美術や文章作成に関する知識
・文章力と分析力
・情報収集能力
難易度
フリーランスで活動することが一般的で、仕事の獲得には実績と人脈が必要です。
収入の目安
案件単価によりますが、年収は200万〜500万円程度が一般的です。 著名なライターになるとさらに高収入を得られる可能性があります。
5. 修復士(保存修復士)
仕事内容
絵画や彫刻などの作品を修復し、文化財としての保存を担います。 科学的な分析や材料研究を基に、作品の状態を改善します。
必要条件
・美術保存修復の専門教育(大学や大学院)
・化学や材料学の知識 ※3
・実務経験(インターンシップや見習い)
難易度
高度な専門知識が求められるため、学び続ける姿勢が必要です。 文化財修復の歴史が長く、技術や研究が非常に進んでいる欧州での研修がキャリアアップに役立ちます。
収入の目安
年収は300万〜500万円程度が一般的ですが、フリーランスで成功すれば1,000万円以上も可能でしょう。
6. アートセラピスト
仕事内容
アートを通じて心理的な支援を行います。 絵画や彫刻の制作を通じて、クライアントの心のケアを行います。
必要条件
・アートセラピーの専門資格
・心理学の知識
・コミュニケーション能力
難易度
心理学の資格や臨床経験が求められます。 また、福祉施設や教育現場での実績が必要です。
収入の目安
勤務先により異なりますが、年収は300万〜600万円程度。 フリーランスの場合、収入はクライアント数に依存します。
これらの職種は、どれもアートの世界を豊かにするために欠かせない存在です。 それぞれの道には異なる挑戦がありますが、自身の興味やスキルに合った職種を選ぶことで、やりがいのあるキャリアを築くことができるでしょう。
ただし日本のアート市場は世界全体の1%程度と規模が小さく、収入面では厳しい現実があるかもしれません。しかし、近年ではSNSやYouTubeといった費用を抑えて個人でも発信できるメディアが主流となっており、これらを効果的に活用することで、ビジネスとして成功する可能性も十分にあると考えます。
注釈
※1 ビジネスの分野では、キュレーションは「膨大な情報や商品を整理し、価値あるものを選び出して顧客に届ける」という意味で使われることが増えています。これを担う人物が「キュレーター」と呼ばれます。
※2 アートディーラーの中で、自前のギャラリーを持つディーラーはギャラリストと呼ばれます。
※3 材料学(Materials Science)は、物質の性質や構造を研究し、その特性を応用する方法を探る学問です。物理学、化学、工学、生物学などの幅広い分野と関連し、製造や加工の基盤を支える重要な分野です。