家具の絵 静物画の中にあるもうひとつの世界

家具の絵 静物画の中にあるもうひとつの世界

画像はSTANDARD TRADE代表 渡邊謙一郎さんの作品

 

家具を描いた絵画は、静物画の一種として長い歴史を持っています。静物画と聞くと、果物や花、食器などがモチーフになっているイメージが強いかもしれませんが、家具もまた時代の文化や人々の暮らしを映し出す大切な題材でした。今回は、そんな「家具の絵」の魅力や歴史について、少し掘り下げてみましょう。

 

1. 家具の絵の歴史的背景

家具を描くことは、単なるインテリアの再現ではなく、その時代の人々の価値観やライフスタイルを表現する手段でもありました。

 

ルネサンス期~オランダ黄金時代

ルネサンス期には、豪華な装飾が施された家具が室内画の中に登場します。特にオランダ黄金時代の画家たちは、光と影を巧みに操りながら、木製キャビネットや椅子、テーブルなどをリアルに描きました。例えば、ピーテル・デ・ホーホやヨハネス・フェルメールの作品には、当時の家庭の雰囲気を伝える家具が精密に描かれています。

 

19世紀~近代

19世紀になると、印象派やポスト印象派の画家たちが家具を新たな視点で捉え始めます。フィンセント・ファン・ゴッホの有名な作品「ゴッホの寝室」は、シンプルな木製家具を中心に据え、室内の静けさや孤独感を見事に表現しています。

また、ヴィルヘルム・ハマスホイは、コペンハーゲンの自宅を繊細な色調で描いた作品を多く残しました。「ストランゲーゼ30番地」シリーズでは、家具や扉が静謐な雰囲気の中で描かれ、室内の美しさや穏やかな時間の流れが感じられます。

 

現代アートにおける家具の存在感

現代に入ると、家具は単なる背景ではなく、象徴的なモチーフとしての役割を果たすようになります。例えば、デヴィッド・ホックニーは家具をカラフルなパターンと組み合わせ、ポップなリズムを生み出しました。

また、ミニマリズムやコンセプチュアル・アートの流れの中で、家具をテーマにした作品も登場しています。家具は日常の一部でありながら、形や配置によってさまざまな意味を持つ存在として、アートの中で新たな表現を生み出しているのです。

 

2. 家具をメインに描いたアートの代表例

家具自体を主役にした絵画は意外と少なく、多くの作品では室内の一部として描かれています。しかし、そんな中でも特に注目されるのが、フィンランドの家具ブランド「アルテック」のポスターです。

 

アルテックのポスターが生み出す新たな価値

アルテックは、1935年にアルヴァ・アアルトとその仲間たちによって設立されたブランドで、北欧デザインの象徴ともいえる存在です。その家具は、シンプルでありながら機能的で、独特の温かみを持っています。

2013年に発売されたアルテックのポスター(デザインスタジオ Greigeのデザイン)は、単なる広告ではなく、アート作品のような美しさを持っています。特に、アアルトがデザインした「スツール60」や「パイミオチェア」をモチーフにしたポスターは、洗練された線と大胆な色使いが特徴的。これらのポスターは、家具そのものをアートとして楽しむという新しい視点を提供してくれます。

また、アルテックのポスターは、インテリアとしても人気があり、実際に部屋に飾ることで、空間にモダンな雰囲気をもたらします。つまり、「家具を描いたアート」という枠を超え、「家具を楽しむアート」としての存在感を放っているのです。

画像はアルテックのアームチェア 「パイミオ」のポスター

アルテックジャパン公式サイトより


家具を描いた絵画は、時代を超えて変遷しながらも、常に人々の生活と密接に結びついてきました。ルネサンス期の豪華な室内画から、印象派による感情豊かな表現、そして現代のポップアートやミニマリズムに至るまで、家具はさまざまな形で描かれています。

また、アルテックのポスターのように、家具そのものをアートとして昇華させた作品もあり、私たちの暮らしの中で家具の持つ意味を改めて考えさせられます。家具はただの道具ではなく、私たちのライフスタイルや価値観を映し出すもの。そして、それをアートとして描くことで、新たな魅力や可能性が生まれるのだと思います。

これからも、家具を描いたアートがどのように進化していくのか、楽しみにしたいですね。

 

 

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