画像は井上陽子さんの 2019-152 フレーム50+額装マット付き
例えば、無機質な壁に小さなアートを1枚加えるだけで、部屋の印象が大きく変わることがあります。自分の好きなアートを飾るのが一番ですが、「いつもと違う雰囲気にしたい」と感じたときは、色に注目して選んでみてはいかがでしょうか。
色彩心理学の研究によれば、色は人の心や体に影響を与えることがあるとされています。ただし、その感じ方は人によって異なり、環境や文化、個人の経験によっても変わるため、「こうすれば必ずこうなる」とは限りません。それでも、ポスター1枚で空間の雰囲気が変わるなら、気軽に試してみる価値はあるはずです。
ここでは、代表的な色がもたらす心理的・身体的な効果と、白い壁と組み合わせたときの印象について、わかりやすくご紹介します。
■ 赤 RED
心理的効果
赤は情熱やエネルギーを象徴する色で、見る人に活気や刺激を与えると言われています。アートに取り入れると、空間に勢いとダイナミズムを加える効果が期待できます。
生理的側面
一部の研究では、赤を見ることで心拍数が上がったり、覚醒度が増す可能性が示唆されています(Elliot & Maier, 2014)。ただし、こうした変化は微細で一時的なものであり、医学的に確立された効果とは言えません。実際のところ、個人差が大きく、明確な作用として断定することは難しいのが現状です。
白背景の場合
白い壁に赤はよく映え、強い印象を与えます。ただし背景が明るいため、過剰な刺激にはならず、バランスが取れた印象になります。
■ 青 BLUE
心理的効果
青は落ち着きや安心感、信頼感を与える色として知られています。集中したい空間やリラックスしたい場所におすすめです。
生理的側面
青は副交感神経を優位にし、リラックスを促す可能性があるとされています(Küller et al., 2009)。感情の鎮静化に寄与するとの報告もあり、穏やかな空間演出に向いています。
白背景の場合
白と組み合わせると、青の清涼感が際立ち、爽やかでクリーンな印象になります。静けさや清潔感を大切にしたい空間におすすめです。
■ 緑 GREEN
心理的効果
緑は自然や安らぎを連想させ、気持ちを落ち着かせる色です。安心感や調和をもたらすため、リビングや寝室などくつろぎの空間によく合います。
生理的側面
自然環境に癒しの効果があることは報告されています(Ulrich, 1984)。ただし「緑という色」そのものが直接的に心身に影響を与えるというより、自然の一部として調和をもたらす補完的な役割があると考えられます。
白背景の場合
緑の柔らかさが白に映え、明るく穏やかな雰囲気を演出します。空間に清涼感やリラックス感を加えたいときに最適です。
■ 黄 YELLOW
心理的効果
黄色は明るさや希望、幸福感を象徴する色です。創造性を刺激し、空間を元気にしてくれます。朝の光のような印象で、活動的な空間にも向いています。
生理的側面
黄色は視覚的に目立ちやすく、注意を引く色です(Kaya & Epps, 2004)。ただし、使いすぎると刺激が強く感じられることもあるため、アクセントとして壁の一部や小さなアートに取り入れるとバランスが取りやすくなります。
白背景の場合
白と合わせると、黄色が柔らかく光を反射し、明るく温かい印象になります。空間を前向きな雰囲気にしたいときに効果的です。
■ 紫 PURPLE
心理的効果
紫は神秘性や高級感、クリエイティビティを連想させる色です。独特の雰囲気を演出できるため、個性を大切にした空間に適しています。
生理的側面
紫の落ち着いたトーンには、心を静めたり集中力を高めたりする効果があるとする研究もあります(Küller et al., 2009)。感性や内面への意識を高めたいときに取り入れるとよいでしょう。
白背景の場合
白の明るさが紫の深みを引き立て、上品で落ち着いた雰囲気になります。アクセントカラーとしても使いやすい色です。
■ オレンジ ORANGE
心理的効果
オレンジは親しみやすさや元気、社交性を感じさせる色です。人が集まる場所や、会話が弾むリビングなどにぴったりです。
生理的側面
赤に似た覚醒作用があるとされますが、より柔らかで明るい印象です(Wright, 1995)。緊張を和らげ、活動的な気分を引き出す手助けにもなります。
白背景の場合
オレンジの明るさが白に映え、元気であたたかみのある空間を演出します。陽だまりのような安心感が欲しいときに最適です。
■ 茶 BROWN
心理的効果
ブラウンは大地や木など自然素材を連想させる色で、温かみと安心感をもたらします。落ち着いたトーンで空間を包み込み、ナチュラルな雰囲気をつくりたいときに向いています。
生理的側面
ブラウンは視覚的刺激が少なく、目にやさしい色とされています。心理的には「守られている」「包まれている」といった感覚を呼び起こしやすく、落ち着きを与える効果が期待されます。
白背景の場合
白と組み合わせることで、ブラウンの温かさが際立ち、やさしく穏やかな印象に仕上がります。木目調のインテリアとの相性も抜群です。
■ 黒 BLACK
心理的効果
黒は高級感や力強さ、洗練された印象を与える色です。ただし、使いすぎると重たく感じられることもあり、アクセント的に取り入れるのが効果的です。
生理的側面
暗い色は刺激が少なく、落ち着きを与えることがあります。ただし、光が少ない環境では気分が沈みがちになることもあるため、面積や照明とのバランスに配慮が必要です。
白背景の場合
白と黒のコントラストにより、黒の輪郭や形が際立ち、洗練されたモダンな印象になります。空間にメリハリを加えたいときにおすすめです。
■ グレー GRAY
心理的効果
グレーは中立的で控えめな印象を与える色で、他の色を引き立てる役割もあります。多用しすぎると無気力な印象になることもあるため、全体の20〜30%程度に抑えるとバランスがとれます。
生理的側面
低刺激な色として、適度に取り入れることで落ち着いた空間を作るのに役立つとされています。オフィスや書斎など集中を要する場所にも向いています。
白背景の場合
グレーのやわらかなトーンが白に溶け込み、静かで上品な空間になります。モノトーンコーディネートの中でも柔らかさを加えたいときにおすすめです。
■ 白 WHITE
心理的効果
白は清潔感、開放感、純粋さを象徴する色で、空間を広く見せたいときに適しています。シンプルでミニマルな空間を目指す際にも活躍します。
生理的側面
刺激が少ないため、集中力や気持ちの切り替えを助ける効果があるとされています(Küller et al., 2009)。医療現場などでも多く用いられることが、その効果を物語っています。
白背景の場合
同じ白でも、質感や陰影を工夫することで奥行きや表情が生まれます。アクセントカラーと合わせて使うことで、より洗練された印象をつくることができます。
■ 単色 vs. 複数色の効果
単色のアートは、その色が持つ印象をダイレクトに伝え、空間に統一感や落ち着きをもたらします。さらに、トーンや濃淡を工夫することで、より洗練された雰囲気を演出することも可能です。
一方で、複数の色を組み合わせると、それぞれの個性が作用し合い、空間により豊かで個性的な印象が生まれます。ただし、たとえば「赤×黒」や「黄色×紫」など、主張の強い色同士を組み合わせると、視覚的な緊張感が強く出ることもあるため注意が必要です。配色のコントラストに気を配ることで、調和のとれた空間に仕上がります。
なお、医学的には色が身体に直接作用するという明確な証拠は限られていますが、色が気分や行動に影響を与える可能性については多くの研究で示唆されています(Elliot & Maier, 2014)。こうした点からも、空間づくりにおける色選びは非常に重要な要素といえるでしょう。
さて、今回のコラムはいかがでしたか?
色の持つ効果については、すでに知っていることが多かったという方もいらっしゃるでしょう。ただ、あらためて整理してみると、日々の空間づくりに少し役立つヒントが見つかるかもしれません。すべてを鵜呑みにする必要はありませんが、頭の片隅に置いておくと、色を選ぶときの視点が少し変わるはずです。
どんな色を選ぶかによって、空間の印象は驚くほど変わります。家具やカーテンとのバランスを考えながら、自分らしさや季節感を取り入れて、ぜひ「アートのある暮らし」を楽しんでみてください。
参考文献:
* Elliot, A. J., & Maier, M. A. (2014). Color Psychology: Effects of Perceiving Color on Psychological Functioning in Humans. *Annual Review of Psychology.*
* Kaya, N., & Epps, H. H. (2004). Relationship between Color and Emotion: A Study of College Students. *College Student Journal.*
* Küller, R., Ballal, S., Laike, T., Mikellides, B., & Tonello, G. (2009). The impact of light and color on psychological mood: A review of experimental literature. *Journal of Environmental Psychology.*
* Ulrich, R. S. (1984). View through a window may influence recovery from surgery. *Science.*
* Wright, A. (1995). *The Beginner's Guide to Colour Psychology.* Colour Affects.