カフェとアートの良好な関係

カフェとアートの良好な関係

 

店ごとに選ばれた音楽がふんわりと流れるカフェもあれば、音のない静けさが魅力になっている店もあります。そんな空間でアートに出会うと、少し気分がほぐれたり、その場の居心地が自然とよくなったりすることがあります。

今回はカフェとアートの、穏やかで素敵な関係性について考えてみました。

 

心地よさをつくるアートの力

カフェに飾られるアートは、必ずしも目を引くような存在感を放っているわけではありません。むしろ、空間になじむような、やわらかい色合いや自然を感じさせる風景、植物のモチーフなどが選ばれることが多く、静かに気持ちを整えてくれるような役割を果たしています。最近では抽象画やモノトーンの作品も人気で、ミニマルな内装との相性もよく、落ち着いた印象を与えてくれます。

アートは会話のきっかけにもなります。「あの作品、どこかで見たことある気がする」「あれは地元の作家さんらしいよ」——そんなふうに、自然に言葉が交わされる場面が生まれるのも、カフェならではの魅力です。

 

日本のカフェ文化は、ちょっとユニークかもしれません

「カフェ好き」はもはや世界共通のライフスタイル。でも、日本のカフェ文化には少し特別な側面があります。

たとえば、日本では喫茶店文化が古くから根づいており、「モーニング」や「サービスドリンク」といった独自の習慣が定着しています。また、単なる飲食の場を超えて「長居できる場所」「一人でも気兼ねなく過ごせる場所」として発展してきた点も特徴です。さらに、地方ではコミュニティの場としての機能も果たしており、都市部とは異なる使われ方をしているのも興味深いところです。

2023年時点で、日本国内の喫茶店・カフェは58,669店舗(※1)。都道府県別では大阪府が全国最多の6,758店、次いで愛知県6,171店、東京都6,121店と、地域によって特色ある展開が見られます(※2)。中でもスターバックス約2,000店、ドトールグループ約1,300店、コメダ珈琲店約1,050店と、主要チェーンが高い存在感を放っています。(チェーンの店舗数は2025年情報)

さらに、2024年にはカフェチェーンが前年比20%超の成長を記録し、外食業界平均(8.5%)を大きく上回りました(※3)。

余談ですが、東京都は人口の多さやカフェ人気の印象とは裏腹に、店舗数では大阪や愛知に次ぐ3位となっています。これは、地価や賃料の高さ、長居による回転率の低下、そして喫茶店文化の根付き方など、複合的な要因によるものと考えられています(※4)。こうした数字からも、日本でカフェが「日常の特別な場所」として浸透していることがわかります。

 

スターバックスは、アートと共にある

カフェとアートの関係を語るうえで、スターバックスの存在は外せません。わたしはスタバファンではありませんが、たまに行くとその演出のうまさに流石だなあと感心する場面がよくあります。

スターバックスでは、「サードプレイス」=家庭でも職場でもない“心地よい第三の居場所”という理念のもと、空間そのものを丁寧につくり込む姿勢が一貫しています。アートはその空間づくりにおいて、常に重要な役割を果たしてきました。

こうした作品は、本社(シアトル)の専任デザインチームがブランドガイドラインを設けたうえで、日本国内では「ストアデザイン・コンセプト部」が監修し、店舗ごとの文化や風景、建築様式との調和を考慮しながら選定・企画しています。つまり壁に飾られたアートは、単なるインテリアではなく、その地域や店舗にしかない「物語」を伝える媒体として位置づけられているということですね。

たとえば、京都BAL店ではアーティスト名和晃平氏のチーム「SANDWICH」がアートディレクションを担当し、現代美術と建築が融合した空間が生まれました。
また、下北沢駅の「シモキタエキウエ店」では、アートカンパニー「OVER ALLs」の山本勇気氏が、スターバックスと下北沢の共通点をテーマに壁画を制作しています。店舗ごとのストーリーが、アートを通じて可視化されているのです。

スターバックスがアートを大切にする理由は、空間の“雰囲気づくり”にとどまらず、人がその場所でどんな時間を過ごし、どう感じるかを支える要素として機能しているからです。アートは視線の先でさりげなく心をほどき、記憶に残る居場所をつくりあげる力を持っています。

また、日本と海外でのスターバックスの空間演出にも違いがあります。
アメリカの店舗は会話や活気を楽しむ「社交の場」としての色合いが強いのに対し、日本のスターバックスは静かに過ごすことや丁寧な空気感を大切にしており、それがアートの存在とも調和しています。

 

今、注目されているアート系カフェ

東京には、アートを楽しみながら過ごせる魅力的なカフェが数多く存在します。その中でも個性が光るお店をいくつかご紹介します。(2025年7月現在)

 

● WHAT CAFE|天王洲アイル

天王洲アイルに位置する「WHAT CAFE」は、ギャラリーとカフェが一体となったアート空間です。常設展示や企画展を通じて、さまざまなアーティストの作品を鑑賞しながら、ドリンクや軽食を楽しむことができます。広々とした開放的な空間は、アート鑑賞とリラックスした時間を同時に提供してくれます。

公式サイト: https://cafe.warehouseofart.org/

 

● LURF GALLERY CAFE|代官山

1階がカフェ、2階がギャラリースペースになった開放感あるアートカフェです。北欧ヴィンテージ家具と洗練された内装が調和し、現代アートの展示とともに、上質なコーヒーやスイーツが楽しめます。展示は定期的に入れ替わり、気鋭のアーティストによる絵画や写真など多彩な表現に触れられるのも魅力。アートと日常が自然に交わる、穏やかな時間が流れる空間です。

公式サイト: https://lurfgallery.com/pages/cafe?srsltid=AfmBOoo1yZa9_14y_C5xHjIcOfmLQ38kzfDgI3JjG24VXgna_C_7hhRi&utm_source=chatgpt.com

 

● WEEKENDERS COFFEE All Right|神楽坂

神楽坂駅すぐの「かもめブックス」内に併設されたブックギャラリーカフェです。本とアート、スペシャルティコーヒーが調和した洗練された空間が魅力で、静かな時間の中に感性を刺激するひとときが流れます。壁一面に並ぶ書籍やアートブック、時折入れ替わる展示作品は、訪れるたびに新しい発見をもたらしてくれます。

公式サイト: https://kamomebooks.jp/

 

● SUNDAY|池尻大橋

「SUNDAY」は、「現代美術コレクターの自宅」をコンセプトにしたカフェ・レストランです。シンプルな内装にアート作品が飾られたスタイリッシュな空間で、週替わりのランチメニューやドリンクを楽しむことができます。アートと食事を同時に堪能できる、くつろぎの場所です。

公式サイト: http://sunday-cafe.jp/index.php

 

● Artbar Tokyo|代官山

「Artbar Tokyo」は、お酒を片手に絵画制作を楽しめる体験型のアートバーです。インストラクターの指導のもと、ゴッホ風やピカソ風などの絵画を描くワークショップが開催されています。ワインやおつまみを楽しみながら、クリエイティブな時間を過ごすことができます。

公式サイト: https://artbar.co.jp/

 

アートは“無言のもてなし”

カフェにおけるアートは、インテリアというより、むしろ“空間の呼吸”に近い存在かもしれません。強く主張せず、でも確かにそこにある。居心地のよさを支える静かな名脇役。

おいしいコーヒーとともに、アートのあるカフェで過ごす時間。それは、自分を少しだけ整えてくれる、ちいさな贅沢なのではないでしょうか。

 

※1:出典 https://coffee.ajca.or.jp/data/

※2:出典 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/toukei/0000078219.html?utm_source=chatgpt.com

※3:出典 https://www.npdjapan.com/

※4:出典 https://urbanlife.tokyo/post/20887/

 

News & Column に戻る