原画とポスター、正解はひとつじゃない。アートとの心地よい距離感を探して

原画とポスター、正解はひとつじゃない。アートとの心地よい距離感を探して

「やっぱり本物がいいよね」
「ポスターじゃなんとなく物足りない」

アートの話をしていると、そんな声を聞くことがあります。
たしかに、原画には独特の力があります。
けれど、ポスターにはポスターならではの楽しみ方があり、それは決して代用品とは言えないものです。

このコラムでは、原画とポスター、それぞれの魅力に目を向けてみようと思います。
どちらかを選ばなければいけないわけではなく、ただちがう形の「アートとの付き合い方」があるということ。

そんなふうに読んでもらえたらうれしいです。

 

原画の魅力 ―― “たった一つ”が持つ力

原画には、特別な存在感があります。
絵の具の重なり、紙やキャンバスの質感、描いた人の息づかいのようなものまで伝わってくるような感覚。美術館やギャラリーで原画を前にすると、時間が止まったような、静かな緊張を覚えることもあります。

また、原画は「その一枚だけ」という希少性も大きな魅力です。
手元で向き合い、守り、時間をかけてじっくりと愛でることができる。
気に入った作品を長くそばに置きたい人にとっては、とても深い満足感を与えてくれるものかもしれません。

 

ポスターの魅力 ―― “着せ替え”できるアートの身軽さ

ポスターは、もっと軽やかです。
たとえば額縁を一つ用意すれば、中身だけを差し替えることで気分や季節に合わせて部屋の雰囲気を変えられる。服を着替えるように、アートも日々の中で自由に楽しむ。
そんな気軽さが、ポスターのいちばんの良さかもしれません。

価格も、ポスターなら比較的手に取りやすいものが多く、試してみたい気持ちに素直になれるのもいいところ。複数枚を組み合わせてコーディネートする場合でも、取り入れやすく、自由な発想で空間づくりを楽しめます。

 

原画とポスター、それぞれの魅力を一緒に

ちなみに、原画とポスターを一緒に飾るというのもおすすめです。
原画に、気分で差し替えられるポスターを添えることで、空間に動きやリズムが生まれます。「一点もの」と「気分で選び直せるもの」、それぞれのちがいを意識しながら並べてみると、互いの魅力が引き立ち合うような感覚もあります。

たとえば玄関に原画、リビングにポスター。
あるいは小さなポスターを複数飾って、その中に一枚だけ原画を混ぜる。
組み合わせ方も、自由です。

 

アートとどう付き合いたいか

原画には、ずっと共にある存在として寄り添うような重みがあり、ポスターには、変化を愉しむ柔らかさがあります。空間やライフスタイル、そのときどきの気分によって、選ぶものが変わっていくのも、自然なことです。

基準になるのは、「原画かポスターか」ではなく、「自分にとって心地よいかどうか」なのかもしれません。


原画とポスター、どちらにも力を注いだアーティストたち

原画だけでなく、ポスターや版画といった複製可能なメディアにも積極的に取り組んだアーティストたちは、表現の幅を広げ、多くの人にアートを届けてきました。

 

キース・ヘリング(Keith Haring)
「アートはみんなのために」を信条とし、地下鉄構内の広告板にチョークで描いた「サブウェイ・ドローイング」など、公共の場でのアート活動を展開しました。彼の作品は、ポスターやTシャツなどのプロダクトとしても広く展開され、多くの人々にアートを届ける手段となっています。
🔗 https://www.nakamura-haring.com/

 

ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)
ポップアートの巨匠であるリキテンスタインは、絵画に加えて、300点以上の版画やポスター作品を制作しました。彼の作品は、原画と複製物の境界を曖昧にし、大衆文化と高級芸術の融合を試みるものでした。
🔗https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%AD%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3

 

粟津潔(Kiyoshi Awazu)
日本のグラフィックデザイナー、アーティストである粟津潔は、「複々製に進路をとれ」という言葉を残し、ポスターや印刷物を通じて社会的メッセージを発信しました。彼の作品は、アートとデザインの境界を越え、表現媒体としてのポスターの可能性を示しています。
🔗 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%9F%E6%B4%A5%E6%BD%94

 

アルフォンス・ミュシャ(Alphonse Mucha)
19世紀末のアール・ヌーヴォーを代表する画家ミュシャは、1894年に制作したポスター「ジスモンダ」で一躍有名になりました。このポスターは、街中に貼られた瞬間から人々の注目を集め、ポスターが芸術作品として評価されるきっかけとなりました。
🔗https://mucha.sakai-bunshin.com/

 

 

原画もポスターも、それぞれに違う良さがあります。
気に入ったものを、気に入ったかたちで。あまり構えず、もっと気楽に、もっと自由に。

その日の気分や空間の空気に合わせて、アートとの距離感を選んでみるのも楽しいものです。

 

 

 

 

 

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