アートがもたらす癒しと安らぎについて

アートがもたらす癒しと安らぎについて

画像は社会福祉法人おぶすまメンバーの制作風景

 

アートは、ただ美しいだけの存在ではありません。心を落ち着かせたり、日々のストレスを和らげたりする力を持っています。ここでは研究や事例をもとに、アートがもたらす癒しの効果を科学的な視点から見ていきましょう。

 

ストレスを和らげる

絵を眺めたり描いたりすると、ストレスホルモンのコルチゾールが低下することが報告されています。短時間の創作体験でも効果が認められており、好きな色を塗るだけで気持ちが落ち着いたり、美術館に足を運ぶと頭の中が整理されたように感じられるのもその一例です。日常にアートを少し取り入れるだけで、呼吸が深まり、気持ちが軽くなる瞬間が増えていくでしょう。

 

感情の表現と解放

アートは、言葉では伝えきれない感情を自由に表す手段です。心理療法で行われるアートセラピーでは、絵や造形を通して気持ちを形にすることで心の負担が軽くなり、安定につながるとされています。日常でも、落ち込んだときに無意識に線を描いたり、音楽を聴きながら色を重ねたりすることが、自分の気持ちを整理する助けになるでしょう。小児病棟での研究では、創作体験の後に気分が改善したという報告もあり、アートが安心感や自己肯定感を支える場面が実際に確認されています。

 

リラクゼーションの促進

病院やクリニックでアートや自然の風景が取り入れられているのには理由があります。自然を眺められる病室の患者は、壁しか見えない病室と比べて入院期間が短く、鎮痛薬の使用も少なかった──そんな研究結果が広く知られています。
イギリスのグレート・オーモンド・ストリート病院(GOSH)の「GOSH Arts」や、アメリカのモフィットがんセンター、ネブラスカ・メディスンの「Healing Arts」では、院内展示や参加型プログラムを通じて、不安や痛みをやわらげる活動が続けられています。家庭でも同じで、リビングや寝室にお気に入りの作品を飾るだけで、空間がやさしく整い、自然と心が休まる場所に変わっていきます。

 

脳の活性化

作品を鑑賞すると、脳の報酬系が刺激され、前向きな気分が引き出されることが知られています。神経美学の研究でも、芸術体験が脳の働きと深く結びついていることが示されています。
イギリスのテート・モダンでは、ウェルビーイングをテーマにしたワークショップやイベントを継続的に実施し、来館者にマインドフルな鑑賞やコミュニティ参加を促してきました。ストックホルムの地下鉄は「世界一長い美術館」と呼ばれ、通勤そのものを豊かな体験に変えています。

 

福祉と社会をアートでつなぐ

医療や福祉とアート・デザインの関わりは以前から研究や実践が続けられてきましたが、近年は国際的な議論の場でも改めて注目されています。2025年2月18・19日にデンマークのユラン半島バイレ市で開かれた「Matsumae Business 2025」シンポジウムでは、日本大使館とバイレ市の共催のもと、「ウェルフェアテクノロジーと孤独/孤立問題」に焦点を当てたプログラムが行われました。

この場で、医療福祉分野でも広く活躍しているテキスタイル&インテリアデザイナーの河東梨香さんが講演を行い、「医療福祉におけるデザインとアートの役割」について語られています。その中で a good view との取り組みにも触れられました。

埼玉県飯能市の社会福祉法人おぶすま福祉会は2013年に木製品ブランド「OBUSUMA(おぶすま)」を立ち上げ、更に昨年からは、障がいのある人たちの新しい自己表現の場をつくり、才能の発掘や育成を目指してアート活動を続けています。

河東さんはこれらのアートディレクションを担い、その中で地域の子どもたち向けのアートワークショップを行ったり、今年度、飯能市が市で生まれた赤ちゃんにプレゼントするOBUSUMA製積み木のリーフレットを利用者さんのアートや文字を使いデザインしています。

 

 

アートの癒しや安らぎの効果は、多くの研究で裏付けられています。ストレスをやわらげ、感情を表現しやすくし、心身をリラックスさせ、脳を元気にしてくれます。さらに、病院や公共空間、国際シンポジウムなど、社会のさまざまな場面でアートの力が活かされています。

日常にアートを取り入れることで、暮らしはもっと豊かで色彩に満ちたものになるでしょう。自分の感性を信じて、心に響く一枚を見つけてみてください。アートは、ただ鑑賞するだけでなく、自分自身と向き合うための大切なツールでもあるのです。


 

参考文献

  • Kaimal, G., Ray, K., & Muniz, J. (2016). Reduction of cortisol levels and participants' responses following art making. Art Therapy, 33(2), 74-80.

  • Stuckey, H. L., & Nobel, J. (2010). The connection between art, healing, and public health. American Journal of Public Health, 100(2), 254–263.

  • Ulrich, R. S. (1984). View through a window may influence recovery from surgery. Science, 224(4647), 420–421.

  • Zeki, S. (2001). Artistic creativity and the brain. Science, 293(5527), 51–52.

  • Malchiodi, C. A. (2012). Art Therapy and Health Care. Guilford Press.



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