画像はかのあさんがたまに訪れて癒されているという、大阪府立花の文化園
小さな家や丘、羊、月、湖。
かのあさんの作品には、どこかで見たことがあるようでありながら、心に浮かぶ情景を重ねた世界が広がっています。構図はシンプルですが、絵具の重なりや手の跡には豊かな質感があり、眺めていると気持ちがゆっくりとほどけていきます。
目指しているのは、日常の中でふと心に留まるような空想の風景画とのこと。その原点や、作品に込めている想いについて伺いました。
絵を描いていこうと思った頃
本格的に創作を始めたのは、美術系の専門学校へ進学した頃だそうです。
学校には、それぞれ異なる感性や方法で絵を描く同級生が多く、その姿からたくさんの刺激を受けたと語ります。さまざまな表現に触れる中で、自分も絵を描いていこうという気持ちが、次第に強くなっていきました。
現在も創作は、日々の営みと切り離せないライフワークです。描くことそのものの楽しさと、作品を誰かに見てもらえる喜びを胸に、制作を続けています。
「小さいお家」に込めた想い
これからも描いていきたいと考えているテーマのひとつが「小さいお家」です。
自宅は、ほっとできる居場所。作品に登場する家も、単なる建物ではなく、安心して帰ることのできる場所や、心を休められる場所の象徴として描かれています。
丘の上に建つ家や、羊たちに囲まれた家。作品の中の小さな家は、それぞれの記憶や感情を静かに呼び起こします。
一見すると、童話の挿絵のようにも映る作品。けれど、眺めているうちに、描かれた景色の向こうにある物語が少しずつ立ち上がってきます。
どこか懐かしく、子どもの頃の記憶に触れるようでありながら、そこに感じるやさしさやぬくもりは、むしろ大人になった今だからこそ心に届くものなのかもしれません。
描こうとしているのは、現実の景色をそのまま写したものではありません。身近な生活の感覚をもとに、想像の中で形づくられていく世界です。
手の跡を残す、自由な描き方
制作では、主にアクリル絵具、クレヨン、色鉛筆を使用しています。
アクリル絵具は、筆だけでなく手を使って大胆に描けることが魅力です。ペインティングナイフを使うこともあり、絵具の厚みや凹凸など、画面に残る手触りを意識しながら制作しています。
一方で、クレヨンや色鉛筆は、ふんわりとしたやわらかな印象を加えるために欠かせません。作品によってはコラージュを取り入れることもあり、複数の素材を重ねながら一枚の絵を形づくっています。
構図はできるだけシンプルに。その分、色の重なりや手で描いた跡が、作品の個性として素直に表れています。
こうした手を使う自由な描き方には、絵本作家・荒井良二さんから受けた影響もあるそうです。

かのあさんのアトリエ
描く楽しみと、日常から得るもの
創作に向き合うときに心がけているのは、肩の力を抜くことです。
あらかじめすべてを決め込むのではなく、その日その日の感情に委ねながら描いていきます。絵を描く時間そのものに、自然な喜びを感じているとのことです。
着想は、特別な場所だけから生まれるものではありません。家で休憩しているときや、公園を歩いているとき。映画館や美術館で、ほかの作家の表現に触れたときにも、新しい作品につながる種が見つかります。
自分の内側にある感情と、日常の中で出会った色や形。その両方が重なり、かのあさんならではの空想の世界へと変わっていくのです。
暮らしの隣に寄り添う一枚
作品が偶然誰かの目に触れ、その人の気持ちを少しでも癒やすことができたらうれしいと話します。
部屋の中で強く主張するのではなく、日々の生活に自然になじみ、ふと目を向けたときに安らげる存在であってほしい。
小さいお家のある風景は、見る人それぞれにとっての、帰りたくなる場所を思い出させてくれるのかもしれません。
かのあさんの作品は今日も、誰かの暮らしの隣で、心をそっとほどいているのでしょう。