MoMAとは?|アートの見方を変えたニューヨーク近代美術館

MoMAとは?|アートの見方を変えたニューヨーク近代美術館

アビー・オルドリッチ・ロックフェラー彫刻庭園 / Photo: hibino, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


MoMAという名前を、どこかで耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
正式名称は「The Museum of Modern Art」。日本ではニューヨーク近代美術館と呼ばれ、英語の頭文字を取った「モマ」の名で親しまれています。
ゴッホの《星月夜》をはじめ、ピカソやマティス、ダリ、ウォーホルなど、近現代美術を代表する作家の作品を所蔵する美術館です。

一方で、MoMAの歩みをたどると、名画を集めた美術館というだけでは語りきれない姿が見えてきます。絵画や彫刻に加え、写真、映画、建築、家具、ポスター、日用品まで紹介してきたこと。そこには「何をアートやデザインとして見るのか」という問いが、開館当初から流れています。


MoMAはどんな美術館?

MoMAがニューヨークに開館したのは1929年。世界恐慌の始まりとなった株価大暴落の直後でした。
当時のアメリカでは、近代美術を専門に扱う美術館はまだ珍しく、現在では巨匠とされるゴッホやセザンヌ、マティス、ピカソの作品も、広く受け入れられていたわけではありません。
新しい時代の美術を紹介する場所を構想したのは、リリー・P・ブリス、メアリー・クイン・サリヴァン、アビー・オルドリッチ・ロックフェラーという3人の女性でした。
開館時のMoMAは、マンハッタンのオフィスビルに借りた一角から始まっています。初代館長に就いたのは、当時27歳だったアルフレッド・H・バー・ジュニア。作品を収集するだけでなく、展覧会や出版を通じて、同時代の新しい表現を紹介していきました。
ちなみに、MoMAとメトロポリタン美術館は別の美術館です。メトロポリタン美術館が古代から現代まで、幅広い時代と地域の作品を扱うのに対し、MoMAの中心にあるのは近代美術と現代美術です。


MoMAはなぜ有名になったのか

美術館には、すでに評価の定まった名作を保存する場所という一面があります。しかし、設立当初のMoMAが積極的に取り上げたのは、評価の途上にあった新しい作品でした。
現実をそのまま写すことから離れた絵画。写真や映画など、新しい技術によって生まれた表現。さらに建築や工業製品も、同じ時代を映すものとして扱いました。
どの作品を選び、どの作品と並べ、どのような流れとして見せるのか。MoMAは展覧会や収集を重ねながら、20世紀の美術を捉える枠組みそのものに大きな影響を与えてきました。

MoMAが世界的に知られるようになった背景には、名作の豊富さだけでなく、まだ評価の定まっていない表現に目を向け、それを社会に紹介してきた姿勢があります。


MoMAを代表する有名作品

MoMAのコレクションは、絵画、彫刻、写真、映画、デザインなど約20万点に及びます。
なかでも広く知られているのが、フィンセント・ファン・ゴッホの《星月夜》です。
渦を巻くような夜空と、強く輝く星。実際の風景を正確に写すというより、ゴッホが捉えた夜の動きや感覚まで描かれているようです。MoMAがこの作品を取得したのは1941年でした。


フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》1889年、ニューヨーク近代美術館蔵/Public Domain, via Wikimedia Commons

 

アンリ・マティスの《ダンス(I)》では、輪になって踊る人物が、簡潔な線と大きな色面で表されています。描き込みを抑えた画面から、身体の動きやリズムが立ち上がります。



アンリ・マティス《ダンス(I)》1909年、ニューヨーク近代美術館蔵/Public Domain, via Wikimedia Commons

 

ピート・モンドリアンの《ブロードウェイ・ブギウギ》は、直線と小さな色面で構成された抽象画です。マンハッタンの街路や、モンドリアンが好んだブギウギのリズムが重なり、画面全体が明滅しているように見えます。

アンリ・ルソーの《夢》に広がるのは、植物が生い茂る想像上のジャングルです。ルソーは熱帯の密林を訪れた経験がなく、パリの植物園や図鑑などから着想を得て、自分だけの風景をつくり上げました。


アンリ・ルソー《夢》1910年、ニューヨーク近代美術館蔵/Public Domain, via Wikimedia Commons

 

これらは同じ美術館にありながら、色も形も生まれた背景も大きく異なる作品です。その違いが一つの建物の中で行き交うことも、MoMAの面白さにつながっています。

 

椅子やポスターも、MoMAのコレクション

MoMAの大きな特徴の一つが、絵画や彫刻以外の分野を早い時期から扱ってきたことです。
1932年には、建築とデザインを扱う専門部門が設けられました。MoMAによれば、美術館に置かれた建築・デザインの学芸部門として世界初の試みでした。

現在の建築・デザインコレクションには、建築模型、家具、照明、食器、家電、工具、織物、自動車など約2万8000点が含まれています。なかにはヘリコプターもあります。グラフィックデザインでは、ポスターやタイポグラフィーなど、文字と画像による表現も収集の対象です。

椅子や道具には、つくられた時代の技術や暮らし方が表れます。座り心地と量産のしやすさをどう両立するのか。限られた材料で、どのような形を生み出すのか。文字や色を使って、情報をどう伝えるのか。

日常の中にあるものを改めて見てみると、形や素材が選ばれた理由が少しずつ浮かび上がります。MoMAは、アートと暮らしの間に明確な境界を引かなかった美術館でもあります。


建物にも表れているMoMAらしさ

MoMAはコレクションと来館者の増加に合わせ、移転や増改築を重ねてきました。現在のマンハッタン53丁目に移ったのは1939年です。
建物に囲まれた敷地の中央には、創設者の名を冠した「アビー・オルドリッチ・ロックフェラー彫刻庭園」があります。作品と建築、都市の空気が交わる、MoMAを象徴する場所の一つです。

2004年には、日本人建築家の谷口吉生が手がけた増改築を経て、新しい美術館が開館しました。谷口の建築では、彫刻庭園を中心に館内の空間が組み立てられ、展示室を移動する途中にも街や庭とのつながりが感じられます。

さらに2019年には、Diller Scofidio + RenfroとGenslerによる拡張を実施。展示面積を増やすとともに、絵画、写真、映像、デザインなどを従来の分野別の枠だけで分けず、同じ時代に生まれた表現として交差させる展示へと改められました。
建物の更新が、作品の並べ方や美術史の見せ方の更新にもつながっているところに、MoMAらしさが表れています。


MoMAも、自らがつくった歴史を見直している

MoMAが築いた近代美術の見取り図は、世界の美術館や美術教育に大きな影響を与えました。その一方で、欧米の男性作家を中心に語られてきたという批判も受けてきました。
2019年の再開館以降は、女性作家やアフリカ系アメリカ人作家、アジア、アフリカ、中南米など各地の作家を含め、異なる背景を持つ作品を組み合わせる展示が以前より目立つようになりました。

かつて自らが形づくった美術史を、別の角度から組み直していく。MoMAは一つの完成形にとどまるのではなく、何を選び、どのように見せるのかを問い直し続けています。


日本でも出会えるMoMA Design Store

MoMAの視点に触れられる場所は、ニューヨークだけではありません。
日本にはMoMA Design Storeの旗艦店があり、表参道、心斎橋、福岡で営業しています。京都店は2026年9月4日、京都高島屋S.C.[T8]2階に移転オープンしました。このほか、銀座、渋谷、池袋のロフト内に売場があり、日本公式オンラインストアも利用できます。

店内に並ぶのは、家具、時計、キッチン用品、文具、ファッション、ポスターなど。美術館のロゴをあしらった商品だけでなく、世界各地のアーティストやデザイナー、メーカーが手がけた品々が選ばれています。

素材の使い方や機能、発想の新しさを、日々使うものの中に見つける。MoMA Design Storeは、美術館の考え方を暮らしに近い場所で感じられる店です。商品の売上は、MoMAの展覧会や教育活動、コレクションの保存なども支えています。


MoMAを訪れる前に

MoMAは、ニューヨーク・マンハッタンの11 West 53 Streetにあります。開館時間や料金は変更されることがあるため、訪問前には公式サイトの「Locations, hours, and admission」で最新情報を確認すると安心です。

また、所蔵作品のすべてが常時展示されているわけではありません。目当ての作品がある場合は、MoMA公式の作品ページにある「On view」の表示も確認できます。


MoMAを知ると、身近なものの見え方が変わる

MoMAで作品を見ていると、色に引かれて足を止めることもあれば、見慣れない形を前にしばらく考え込むこともあります。不思議な椅子を見て、実際に座ったときの感触を想像することもあるでしょう。
心に残るものは、その人やその日によって変わります。最初はよく分からなかった作品が、あとになってふと思い出されることもあります。

MoMAが広げてきたのは、美術館に置かれる作品の種類だけではありません。

一枚のポスターは、なぜこの色で、この文字の大きさなのか。いつも使っている椅子は、どのように体を支えているのか。街の建物は、光や人の動きをどう受け止めているのか。

MoMAの歴史をたどると、美術館の外にあるものにも、それぞれの形が生まれた理由が見えてきます。

これまで何気なく見ていたものが、少し違って見えてくる。MoMAは約一世紀にわたり、そんな新しい視点を投げかけてきた美術館です。



出典

https://www.moma.org/about/mission-statement/history
https://www.moma.org/collection/
https://www.moma.org/about/curatorial-departments/architecture-design
https://www.moma.org/magazine/articles/1166
https://www.moma.org/visit/
https://www.momastore.jp/shop/pages/about_locations_jp.aspx
https://www.momastore.jp/shop/pages/about_locations_loft.aspx

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