中銀カプセルタワービル。黒川紀章氏が設計し、1972年に東京・銀座で竣工した集合住宅兼オフィスです。日本の建築運動「メタボリズム」を象徴する代表作で、2022年に解体されました。
街を歩いていると、思わず足を止めて見上げたくなる建築に出会うことがあります。
彫刻のように際立つ外観。重力に逆らうかのように張り出した構造。光や周囲の風景を取り込み、見る位置によって表情を変える空間。
建築は、人が暮らし、働き、集うためにつくられるものです。しかし中には、機能だけでは説明しきれない造形や存在感を持ち、一枚の絵や彫刻と同じように、眺める人の感覚を刺激するものもあります。
今回は、美術館や博物館を主用途とする建築をあえて選外とし、東京と神奈川にある建築物の中から、私が「アートのようだ」と感じた11件を選びました。
なお、東京科学大学 百年記念館は現在、大学博物館の主要施設としても使われていますが、今回は大学創立100周年を記念して建てられた建築作品として取り上げています。
建築史上の評価だけを基準にした一覧ではありません。外観の造形や構造の面白さ、街や風景との関係などに目を向けた、個人的な視点による選出です。

1.静岡新聞・静岡放送東京支社ビル
所在地:東京都中央区銀座8丁目
設計:丹下健三
銀座と新橋の境に立つ、円筒形のコアと箱状の空間を組み合わせた建築です。
中央の円筒部分には階段や設備などが集約され、そこからオフィス空間が枝のように張り出しています。建築を完成された一つの形としてではなく、必要に応じて成長できる構造として捉えた「メタボリズム」の思想が、外観からも分かりやすく伝わります。
1967年に竣工した建築ですが、高層ビルが並ぶ現在の銀座にあっても、その独創的な輪郭は埋もれていません。円筒と直方体だけで構成された姿には、未来都市の一部を切り取ったような存在感があります。

2.NOAビル
所在地:東京都港区麻布台2丁目3-5
構想:白井晟一
設計・施工:竹中工務店
黒く光る楕円筒形の上層部と、赤褐色の基壇。NOAビルは、周囲の一般的なオフィスビルとは明らかに異なる表情を持っています。
外壁には窓が少なく、内部の様子をほとんど見せません。上部の巨大な円筒と、重量感のある低層部が組み合わされ、塔や要塞、抽象彫刻にも通じる力強さを生み出しています。
1974年に竣工し、白井晟一が構想、竹中工務店が設計・施工を担当しました。晴れた日には金属的な光を帯び、曇天では黒い塊として街角に立ち現れます。

3.駐日クウェート国大使館
所在地:東京都港区三田4丁目13-12
設計:丹下健三
大小の直方体が、太い構造体の周囲へ上下左右に張り出す大使館建築です。
各階を単純に積み重ねるのではなく、用途の異なる空間を立体的に配置しています。複数の機能を垂直方向へ組み合わせることで、一棟の中に小さな都市をつくるような構成です。
重いコンクリートの箱が宙に浮く姿には、大胆さと緊張感が同居しています。1970年に完成した丹下健三の作品で、構造をそのまま造形へとつなげた、戦後建築の実験性を感じさせる一棟です。

4.東京科学大学 百年記念館
所在地:東京都目黒区大岡山2丁目
設計:篠原一男
大岡山駅を出ると、キャンパスの入口に銀色のハーフシリンダーが現れます。
曲面、直線、ガラス面といった異質な形が交差し、大学施設というより、駅前に置かれた巨大な立体作品を思わせます。上部のハーフシリンダーが浮遊するように張り出す構成も、この建築を強く印象づける要素です。
旧東京工業大学の創立100周年記念事業として建てられ、1987年に竣工しました。篠原一男による設計で、現在は東京科学大学博物館の主要施設としても使われています。

5.多摩美術大学八王子図書館
所在地:東京都八王子市鑓水2丁目1723
設計:伊東豊雄建築設計事務所
大小のコンクリートアーチが、木々のように連なる大学図書館です。
正門から続く緩やかな傾斜が館内へ入り込み、床も完全な水平ではありません。アーチに沿って設けられたガラス越しに、外の自然と内部の書架や机が重なります。
アーチは一見規則的に並んでいますが、幅や高さが少しずつ異なります。歩く位置によって柱の重なり方や視界が変化し、アーチでつくられた林の中を進むような感覚を味わえる空間です。

6.ヒルサイドテラス
所在地:東京都渋谷区猿楽町・代官山町周辺
設計:槇文彦・槇総合計画事務所
ヒルサイドテラスは、一棟の建物ではありません。旧山手通り沿いに、住居、店舗、オフィスなどが連なる低層の複合建築群です。
1967年から1992年まで、数期に分けて段階的に建設されました。一度に街区全体を完成させるのではなく、その時々の環境や都市の変化に応じながら、長い時間をかけて形成されています。
魅力は、単体の建物だけにあるのではありません。歩道、中庭、階段、植栽、建物同士の間隔まで含めた全体の関係が、代官山らしい街並みをつくっています。通りを歩くことで、建築と都市がともに育ってきた過程を感じられる場所です。

7.東京カテドラル聖マリア大聖堂
所在地:東京都文京区関口3丁目
設計:丹下健三
ステンレスで覆われた曲面が、空へ向かって大きく立ち上がるカトリック東京大司教区の司教座聖堂です。
上空から見ると十字形となり、壁と屋根を明確に分けず、8枚の曲面を連続させています。地上から眺めると、翼や折り紙、金属彫刻を思わせる鋭く伸びやかな輪郭が現れます。
現在の大聖堂は、丹下健三の設計によって1964年12月8日に落成しました。外側の銀色の輝きに対し、内部は打ち放しコンクリートによる重厚な空間です。上部から差し込む光が、装飾に頼ることなく荘厳さを生み出しています。

8.横浜港大さん橋国際客船ターミナル
所在地:神奈川県横浜市中区海岸通1丁目1-4
設計:Foreign Office Architects(FOA)
設計者:アレハンドロ・ザエラ=ポロ、ファルシッド・ムサヴィ
床、壁、屋根の境界を曖昧にし、複数の面を折り重ねながら連続させた国際客船ターミナルです。
国際デザインコンペによって設計案が選ばれ、現在の施設は2002年に完成しました。上部は「くじらのせなか」と呼ばれる広場になっており、建物の屋根でありながら、公園や展望スペースのように歩くことができます。
通路、広場、屋根が途切れずにつながり、どこからが建物で、どこからが屋外なのかを明確に区切りません。横浜港へ向かって延びる人工的な地形として体験できる場所です。

9.湘南港ヨットハウス
所在地:神奈川県藤沢市江の島1丁目
設計:ヘルム+オンデザインパートナーズ
江の島のヨットハーバーに、波形の白い屋根を広げる港湾施設です。
約2,000平方メートルの一枚屋根が建物全体を覆い、海面や風、ヨットの帆を連想させる柔らかな輪郭を描いています。屋根には自然光を取り込む開口部が設けられ、内部の広場やテラスへ明るさを届けます。
1964年に建てられた旧施設の建て替えとして計画され、現在のヨットハウスは2014年に完成しました。ヨット利用者のためだけではなく、一般の来訪者にも開かれた港の拠点としてつくられています。

10.紀尾井清堂
所在地:東京都千代田区紀尾井町3-1
設計・監理:内藤廣建築設計事務所
透明なガラスの外皮が、内部の巨大なコンクリート構造を包み込んでいます。
館内では、壁、階段、木の大梁が立体的に交差し、吹き抜けを囲むように動線が巡ります。用途ごとに空間を細かく区切るのではなく、完成後に使い方を考えるという、通常とは逆の発想から生まれた建築です。
紀尾井清堂は2020年12月に竣工しました。翌年以降、見学会や展覧会、建築専門誌などを通じて紹介されています。見る位置を変えるたびに構造体の重なり方が変化し、建物の中に立体作品が収められているようにも、建築そのものが作品であるようにも感じられます。
なお、通常時に自由に内部を見学できる施設とは限りません。公開や催しの情報は、事前に公式案内を確認する必要があります。所在地と近年の公開情報は倫理研究所の案内で確認できます。

11.国立代々木競技場 第二体育館
所在地:東京都渋谷区神南2丁目
建設・総合意匠:丹下健三
構造:坪井善勝
第一体育館の隣に立つ第二体育館は、円形に近い平面と吊り屋根によって構成されています。
一つの支柱から螺旋状に吊り材を伸ばし、屋根面を支える構造です。渦を巻きながら中央へ立ち上がる輪郭と、建物の外周を巡る動線が一体となり、限られた規模の中に強い運動感を生み出しています。
1964年の東京オリンピックに向けて建設され、同年8月31日に完成しました。大会ではバスケットボール競技の会場として使用され、2021年には第一体育館とともに国の重要文化財に指定されています。
建築を見るために、少しだけ遠回りをする
建築の面白さは、専門的な知識がなければ味わえないものではありません。
形が気になる。素材の組み合わせが美しい。なぜこの場所に、この姿で建っているのだろう。そんな素朴な疑問から眺めるだけでも、いつもの街は少し違って見えてきます。
今回紹介した11件は、東京近郊にある建築物の中から、造形の面白さや構造の美しさ、街との関係に惹かれたものを、個人的な視点で選びました。
もちろん、紹介しきれないほど、ほかにも素敵な建築物があります。
いつもの道を少し遠回りしたり、旅先で気になる建物へ近づいたりしながら、ぜひ自分だけの「アートのような建築物」を探してみてください。
参考・施設情報
静岡新聞・静岡放送東京支社ビル|TANGE建築都市設計
NOAビル|東京建築祭
駐日クウェート国大使館|TANGE建築都市設計
東京科学大学 百年記念館・博物館|東京科学大学
多摩美術大学 八王子図書館|多摩美術大学図書館
ヒルサイドテラス ストーリー|HILLSIDE TERRACE
東京カテドラル聖マリア大聖堂|カトリック東京大司教区
横浜港大さん橋国際客船ターミナルの建築案内
湘南港ヨットハウス|神奈川県
紀尾井清堂|一般社団法人倫理研究所
国立代々木競技場の歴史|日本スポーツ振興センター
注記
※施設によって、見学可能な範囲や開館日、撮影ルールが異なります。訪問前に各施設の公式サイトで最新情報をご確認ください。大使館、大学、宗教施設、業務施設などでは、施設利用者や周辺の方への配慮をお願いいたします。
※掲載画像は、各建築物を参考にAIで作成した線画イメージです。実際の建築物とは一部異なる場合があります。