画像はサトウさんのアトリエ
日常に溶け込みながら、それでいて気の利いた色と形でありたい。サトウアサミさんの作品には、そんな確かな意志が宿っています。比較的シンプルな形のはずなのに、どこか複雑な奥行きがある。それは、作家とデザイナーという二つの視点を意識的に行き来することで生まれる、サトウさんならではの緊張感なのだと思います。
作品との最初の出会い
制作を本格的に始めたのは、高校2年生のころ。美術科でデザインの基礎を学びながら、課題とは別に木版画の独学に打ち込みました。分野を分けずに取り組むその姿勢は、今の活動スタイルにも自然につながっています。
19歳のとき、木版画を中心とした展覧会を開催。そこで作品を見た方からイタリア料理店のロゴとサインのデザインを依頼されたことが、商業デザインへの最初の一歩となりました。"表現するための作品"と"使うための作品"。一見相反するように見えるこの二つが、実は同じ根を持つものだと体感したこの経験が、以来ずっと制作の根底に流れています。デザインと表現、どちらかに偏ることなく両方を手がけ続けているのは、その原点があるからかもしれません。
素材と制作のプロセス
現在の制作は、和紙×墨、あるいは洋紙×アクリル絵の具で原画を描くことから始まります。木版画の時代からの流れで、和紙と墨は今も手放せない画材のひとつ。愛用しているのは鳥取で作られる厚手の和紙です。
原画を描いたあとはデジタルへと場を移し、パーツを組み合わせ、色のバランスを整えながら一枚の画面を完成させていきます。デジタル上でまず大きな一枚を仕上げ、そこからトリミングして完成に近づけるといいます。色の組み合わせや見えているバランスはとりわけ重要で、この工程にもっとも時間をかけます。何日か寝かせて、改めて客観的な目で見直す。この「間」が、作品の質を決める重要な工程だといいます。単純で普遍的な形の組み合わせが、その作品に独特のリズムをもたらしています。

サトウさん愛用の画材
二つの視点を持つということ
作家として表現に没頭する主観的な視点と、デザイナーとして場を客観的に捉える視点。この往来が、彼女にとってのリズムであり、指針でもあります。幼いころから感性を仕事にする人たちと接する機会が多かったこともあり、自分のアイデアや考えを単なる主観に留めず、求められる場面で的確に発信することを意識してきたといいます。その姿勢は、空間デザインや壁画、パッケージ、ロゴと多岐にわたる仕事へとつながり、国内外の大手企業からの依頼も数多く手がけています。
影響を受けた作り手として挙げるのは、エットレ・ソットサスと棟方志功。前者はプロダクトとアートの境界を軽やかに越えたデザイナーであり、後者は版画で独自の世界を切り拓いた作家です。この二人を並べるところに、彼女の制作の幅と、その根にあるものが見えるような気がします。
日常から受け取るもの
インスピレーションの多くは、街を歩く時間からやってくるそうです。観光でも特別な場所でもなく、ただの日常の時間。そして秋から冬にかけての空気感は、感覚の基盤になっているといいます。植物のような有機的な静けさと大胆さが共存する作品の雰囲気は、こうした蓄積によって育まれています。
作品を手にする方へ
ドローイングの揺らぎを楽しんでほしい、とサトウさんは言います。彼女の作品と長く付き合っているわたしが感じるのは、飾るほどに部屋になじみながら、それでいて存在を主張し続けるしなやかさと強さ。計算された思いっきりの良さが、意識を捉えて離しません。