紙と布、同じ素材からできているというお話

紙と布、同じ素材からできているというお話

画像はセルロースの分子構造イメージ(3Dモデル)

 

紙と布って、実は出発点が近いことをご存じでしたか。
ふだんはまったく別ものとして扱われますよね。紙は紙、布は布。けれど少し視点を変えると、どちらも多くは植物由来の繊維を材料にしている、という共通点が見えてきます。綿や麻のような天然繊維も、紙の原料になるパルプも、もとは植物の中にある繊維。そこには、セルロースという植物由来の成分が含まれています。だからこそ、触感や表情のちがいが、かえって面白く感じられるのかもしれません。

では、なぜ紙と布は別の世界に分かれていったのでしょう。答えは意外とシンプルで、素材そのものより、作り方の発想が違ったからです。

紙は、水の力を借りる素材です。
繊維をいったん水の中にほぐして散らし、うすい層として広げて、脱水して乾かす。そうすると繊維どうしが寄り添い、面としてまとまります。紙の強さや質感は、繊維のほぐし方や密度、仕上げで変わり、薄くて広くて均一な面を作るのが得意です。

一方、布は、構造で強さを作ります。
繊維を束ねて糸にし、織るか編む。糸の太さや撚り、織りや編みのパターンで、しなやかさや伸び、丈夫さが決まります。布が身につけることに向いているのは、引っ張られても破れにくく、動きに合わせて形を変えられるから。これは繊維どうしがくっついているというより、組み方の設計で生まれる性質です。

そして、この二つの間に橋をかける存在が不織布です。
不織布は、織らない、編まない。繊維をシート状に広げてから、別の方法で結びつけて布のように仕上げます。針で絡ませたり、水の勢いで絡ませたり、熱や接着で固めたり。用途に合わせて結び方を選べるのが不織布の強みです。なお規格上、不織布は「紙を除外する」と整理されています。見た目が似ていても、別ジャンルとして育ってきたということです。

不織布の中には、さらに紙に近いタイプがあります。
それが湿式不織布です。繊維を水に分散してシートにする点で、作り方の気配が抄紙にとても似ています。つまり同じ「水でシートを作る」仲間でも、紙と不織布は狙っている性能や設計の自由度が少し違う。そこが面白いところです。

ここまでをまとめると、違いはこうなります。
・紙は、水の中で繊維を広げて、面として固める。
・布は、糸にしてから組み立てて、構造として強くする。
・不織布は、繊維の層を作って、別のやり方で結びつける。
同じ素材の仲間でも、成長の仕方が違ったわけです。

 

左から、紙・布・不織布の製造工程をイメージした画像。

 

歴史を考えると、分かれ方にも納得がいきます。
紙は、文字や情報、包装と相性がよく、薄くて軽い面として社会を変えていきました。布は、衣服や暮らしの道具として、丈夫さや触り心地の世界を磨いてきました。そして近代以降、不織布が衛生材やフィルターなど「大量に、狙った性能で」作る領域で一気に存在感を増していきます。紙と布の間にあった空白が、用途の広がりとともに埋まっていった、と見てもよさそうです。

そして最先端の話になると、紙・布・不織布の境界はもう少し曖昧になっていきます。
代表例がセルロースナノファイバー(CNF)です。植物由来のとても細い繊維で、軽くて強いなどの特性が期待され、材料の世界で注目が集まっています。環境省も利活用に関するガイドライン等を通じて、製品化の動向やリサイクル、CO2削減効果の算定方法などの知見を整理しています。
CNFは、紙に混ぜてもよし、不織布の設計に活かしてもよし、複合材料として別の世界へ行ってもよし。共通の材料感覚をもつからこそ、いろいろな領域に入り込みやすいのだと思います。

未来をやさしく言うなら、ポイントは二つだと思います(推測ですが)。
一つは、脱プラや循環の流れの中で、紙・不織布・布がそれぞれ得意なところを持ち寄って、より回収しやすい構成や、より少ない材料で同等の性能を出す方向が強まること。
もう一つは、触り心地や見た目といった「感覚の価値」と、フィルター性や強度といった「機能の価値」が、同じ一枚の中で共存していくことです。紙が布っぽくなり、布が紙っぽくなり、その間を不織布が行き来する。そういう時代に向かっている気配があります。

紙と布は、べつべつの文化を育ててきた素材です。
でも根っこは近い。どちらも多くは植物由来の繊維から生まれています。そう思って身の回りの素材を眺めると、紙の触感が少し布に見えたり、布の表情が少し紙に見えたりします。素材を用途だけでなく、作り方の思想で見直すと、世界が少し立体的になりませんか。

今回はアートとは直接関係のないコラムでしたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。

 

【出典】
・ISO 9092:1988 (iso.org)
・Hubbe & Koukoulas 2016(湿式不織布レビュー)(bioresources.cnr.ncsu.edu)
・環境省 CNF (env.go.jp)

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