部屋の家具を、季節ごとに替えることはなかなかできません。
けれど、窓から入る光は変わります。外を歩けば、目に入る植物や空の色も変わる。着るものや食べるものも、少しずつ次の季節へ移っていきます。
そう考えると、壁に飾る絵も、一年中同じでなくてもいいのかもしれません。
春になったら一枚を掛け替え、夏が近づいたらまた別の一枚を選ぶ。大がかりな模様替えではありませんが、壁の一角が変わるだけでも、見慣れた部屋の印象は少し変わります。
では、季節に合わせて絵を選ぶとしたら、どんな選び方があるのでしょうか。
桜、海、紅葉、雪といった、その季節を直接思わせるモチーフだけが選択肢ではありません。色や光、植物や動物、絵の具の質感まで目を向けてみると、季節とアートの組み合わせはもっと自由になります。
春|軽やかな色と、動き始める植物を
春の絵と聞いて、まず思い浮かぶのは花かもしれません。
もちろん、花を飾るのも春らしい楽しみ方です。ただ、冬から春への変化を考えてみると、ほかにも手がかりがあります。
植物が芽吹き、景色の中に少しずつ色が増えていくこと。日が長くなり、窓を開けて過ごせる日が増えていくこと。そんな季節の変化から一枚を選んでみます。
名前のとおり、春を素直に取り入れたいときの、栗原あきさんの一枚です。
花が飾られた部屋には明るい色のソファやラグが置かれ、その向こうには開け放たれた窓と海が見えます。
春らしいものが一つだけ描かれているのではなく、部屋全体に新しい季節がやってきたような作品です。
SPROUTは「芽」「新芽」という意味。発芽したばかりの植物をモチーフにした、一栁綾乃さんの作品です。
春を象徴するものは、満開の花だけではありません。土から顔を出した小さな芽にも、新しい季節の始まりがあります。
水彩ならではの透明感を残したグリーンも、これから植物が育っていく季節によく似合います。
もう少し自由に、植物そのものの形を楽しむのもよさそうです。
青山佳世さんが、古いイギリスの植物図鑑を参考にしながら、描いてみたい造形の植物を選んだ《PLANTS》。
花の色ではなく、葉や茎、それぞれの植物が持つ形に目を向ける。春の一枚にも、こんな選び方があります。
夏|海、光、そして青
暑い季節には、青い絵が自然と目に留まります。
海や水を連想させる青は、夏のアートを選ぶうえで分かりやすい手がかりです。
ただ、同じ青でも作品から受ける印象はさまざまです。
海そのものを描いた絵もあれば、水や光を思わせる抽象画もある。あるいは、ひとつの色そのものを楽しむこともできます。
縹色の海を遊覧船が渡る、大川菜々子さんの作品です。
画面の大部分を占める海と、その上を進む小さな船。遠くまで続く水面を眺めていると、視線も自然とその先へ向かいます。
海というモチーフだけでなく、景色の広がりまで含めて、夏に飾ってみたい一枚です。
同じブルーでも、こちらはタンジサトミさんの抽象画です。
深い青とやわらかな白。その重なりには、水の中から光を見上げているような表情があります。
具体的な海の景色が描かれていなくても、水や光を思い浮かべることがある。
「夏だから海の絵」から少し離れて選んでみると、こんな一枚も候補になります。
さらに、モチーフから離れて「色」そのものを選んでみます。
紺碧は、深みのある鮮やかな青。澄み渡った空や広い海を思わせる色でもあります。
《昼のはじまり》が風景から、《INNER》が水や光の印象から夏を感じる作品だとすれば、《紺碧の1800》は、一つの色から季節を選ぶ、谷口正直さんの一枚です。
秋|色と質感を、少し深い方へ
秋になると、夏の強い光がやわらぎ、街や自然の色も少しずつ変わっていきます。
アートも、紅葉を描いたものだけが秋の選択肢ではありません。
深みのある色、いくつもの色の重なり、絵の具の厚み。
夏の軽やかな一枚から、少し密度を感じる作品へ掛け替えてみるのも、季節を楽しむ方法です。
北村人さんによる、その名も《秋》。
季節の名前を持つ作品ですが、描かれているのは写実的な紅葉や秋の風景ではありません。
クレヨンで描かれた動物と色の組み合わせから生まれる、どこかユーモラスな世界。
「秋の絵」といっても、その表現はさまざまです。
タンジサトミさんが、アルコールインクの広がりやにじみ、色の混ざり合いを生かして描いた抽象作品です。
ブラウンを中心とした色調はもちろん、いくつもの色が重なって生まれる奥行きも印象に残ります。
「秋だから茶色」というだけではなく、色が混ざり合い、深くなっていく表情まで含めて選びたい一枚です。
秋の一枚を、オレンジやマゼンタといった色から選ぶ方法もあります。
滝本優美さんの《PIANO》は、鮮やかな色と、厚く塗られた絵の具の表情が印象的な作品です。
秋そのものを描いた絵ではありません。それでも、夏とは少し違う濃さのある色や絵肌に目を向けてみると、季節に合わせた選択肢の一つになってきます。
冬|暖かな光を選ぶか、冬そのものを楽しむか
冬の絵選びには、二つの方向がありそうです。
寒い季節だからこそ、暖かな色や光を感じる作品を選ぶ。
あるいは、白や冬を思わせるモチーフを取り入れて、季節そのものを楽しむ。
どちらかに決める必要はありません。その日の気分や部屋に合わせて選べることも、絵を替える楽しさです。
大川菜々子さんが描いた、朝の海。
日の出の光を受けた水面が黄金色に染まり、画面全体をやわらかな明るさが包みます。
冬だから白や青を選ぶのではなく、寒い季節だからこそ暖かな光を感じる一枚を飾る。
そんな選び方です。
一方で、冬という季節をそのまま楽しむなら、北村人さんの《雪》を。
季節を表すタイトルを持ちながら、いわゆる雪景色を描いた風景画とは違います。
冬を感じさせる作品は、必ずしも白一色の景色である必要はない。そんなことにも気づかせてくれます。
もう一つは、動物から季節を選ぶ方法です。
米津祐介さんが描いた、北極圏などに生息するシロフクロウ。白い羽毛と、アイボリーを基調とした画面は、自然と冬を連想させます。
風景でも抽象画でもなく、一羽の鳥から季節を感じる。
四季の絵選びには、こんな入口もあります。
季節をそのまま描かなくてもいい
こうして四季の作品を並べてみると、季節と絵を結びつける方法は一つではないことが分かります。
春には花や新芽を選ぶこともできれば、植物の形そのものを楽しむこともできます。
夏には海を描いた風景画も、深いブルーの抽象画もある。
秋には紅葉が描かれていなくても、深みのある色や絵の具の質感から季節を感じることができます。
冬も同じです。冬らしいモチーフを選ぶことも、反対に暖かな光を部屋に加えることもできます。
「何が描かれているか」だけではなく、「その絵から何を感じるか」。
そこまで広げてみると、季節に合わせたアート選びは、もっと自由になります。
絵を替えることは、季節に気づくこと
季節が変わるたびに、家具を替える必要はありません。
大きな模様替えをしなくても、壁の一枚なら替えることができます。
春に飾っていた絵をしまい、夏の一枚を出す。秋が来たらまた掛け替え、冬が終われば、去年の春に飾った作品をもう一度取り出してみる。
同じ絵なのに、一年ぶりに見ると少し違って見えることもあるかもしれません。
服を衣替えするように、壁にも一年のリズムがあっていい。
「そろそろ、この絵を飾ろうかな」。
そう思うことも、季節の変化に気づくきっかけになるのではないでしょうか。











